日本酒備忘録の番外編ということで、知識面についてお勉強していきます。
(執筆現在、日本酒検定に向けて勉強中・・・。)
第1回目は酒母造りについて。
日本酒講座的なものの第1回って「大吟醸って何?精米歩合?」みたいなの書くでしょ、普通。...と自分にツッコミを入れつつ、酒母造り。理由は山廃仕込の日本酒を飲んでいるから。
↓日本酒備忘録第19回の菊姫と、第24回の天狗舞。 「山廃仕込」と書かれています。
日本酒の製造工程の概要
はじめに、日本酒の作る工程について超ざっくりとまとめ。気が向いたらそれぞれお勉強します。
1.原料処理...米を磨いたり蒸したり。
2.製麹...蒸米の一部を使って麹菌を繁殖。
3.酒母造り...酵母を培養した液体=酒母(酛)を造る。
4.醪造り...麹や酒母などを投入した液体=醪(もろみ)でアルコール発酵。
5.搾り~瓶詰め...醪を搾ってろ過したり火入れしたり貯蔵したりして瓶詰め。
今回は上記の3.酒母造りについて。解説する順番がおかしいとか言ってはいけない
酒母造りとは、主に酵母を培養するための工程。水、酒母麹、酒母米などから作られる液体が酒を生み出す母である酒母(しゅぼ)であり、酒の元となる酛(もと)とも呼ばれる。酵母は他の微生物と一緒だと淘汰されやすい一方、他の微生物が苦手な酸性環境に強いといった性質をもつ。そこで酒母造りでは、始めに乳酸による酸性環境を作り、そこで酵母を培養するといった工程がとられる。
酒母造りの種類について
①生酛造り
江戸時代に確立された酒母造りは生酛造り(きもとづくり)と呼ばれ、現在は約1%のごく限られた日本酒がこの製法で造られる。生酛造りでは、 水、酒母麹、酒母米を投入した後、米の糖化を早めるために米を摺り潰す作業である山卸し(酛摺り)、複数の桶をひとつにまとめる酛よせを行う。その後乳酸菌を育成し、乳酸菌が作る乳酸によって酸性環境を作ったところに酵母を添加して培養することで酒母が完成する。
②山廃仕込
それに対して、明治時代(1909)に開発された製法が山廃仕込(やまはいじこみ)である。現在は約9%、少ないながらも一部の日本酒がこの製法で造られる。生酛の工程のうち山卸しは重労働であり、生酛に対して山卸しを廃止して造られた酛のことを山廃酛と呼ぶ。山卸し、つまり米を摺り潰す工程を行わずに乳酸菌を育成し、そして酵母を育成する。山廃仕込は単純に生酛造りから山卸しを廃止すれば成立するわけでなく、山廃仕込は米や麹、精米技術などの発展や工程の工夫による成果である。
③速醸造り
山廃仕込開発の翌年(1910)に開発された製法が速醸造り(そくじょうづくり)であり、現在約90%といった大半の日本酒がこの製法で造られる。上記2つが「乳酸菌育成法(生酛系酒母)」と呼ばれるのに対して、こちらは「乳酸添加法(速醸系酒母)」と呼ばれる。その名の通り、速醸造りでは乳酸菌を育成して乳酸を生成するのではなく、乳酸そのものを最初から添加して酵母を培養する。メリットは安全性と効率の良さである。始めから酸性環境を作り出すことで、酵母以外の微生物がほとんど繁殖しないことから安定、安全に酒母造りができる。また、酒母の完成までに上記の乳酸菌育成法が4週間程度かかるのに対して、この乳酸添加法では2週間程度で完了することから、時間的、コスト的な効率も良い。
速醸造りには、主流である速醸酛の他、仕込水を高温にすることで不要な微生物の淘汰と糖化を行う高温糖化酛が存在する。
④その他、古来の製法~菩提酛、水酛~
江戸時代に確立された生酛に対して、それ以前の室町時代に確立されたのが菩提酛である。生酛との違いは、最初に自然界の乳酸菌によって酸性にした「そやし水」と呼ばれるものを仕込水として使用している点であり、生酛の原型とされている。奈良県の菩提山正暦寺で造られたから菩提酛。なおその酒は菩提泉(僧坊酒)と呼ばれた。これを最初の日本酒とする説から、正暦寺には「日本清酒発祥之地」という碑があるとか。
水酛は、菩提酛をベースとした、温暖な季節に適した酒母育成法。同様に「そやし水」を使っており水が違うから水酛。
これらの製法は生酛などの発展により長らく使われてこなかったが、復活させた酒蔵が出てきているらしい。というか冷蔵庫に菩提酛造りの日本酒があったのでいずれ飲みます。
酒質の違いについて
酒母造りの違い、特に乳酸菌育成法(①②)と乳酸添加法(③)の大きな違いとして、関与する微生物が挙げられる。乳酸添加法(③)では始めから酵母のみを培養して他の微生物の活動は抑制されるため、安定した酒質を造りやすいと共に、軽快な酒質に仕上がりやすい。一方で、乳酸菌育成法(①②)では硝酸還元菌、乳酸菌、酵母が順に繁殖していく(最終的には乳酸により酵母以外は死滅する)ため、一定の酒質を得るのは容易ではない一方、乳酸菌などが乳酸以外にも様々な成分を分泌することから濃醇、繊細ながら深みがあるといった酒質に仕上がりやすい。
山廃仕込については、執筆者が実際に飲んだ中でも、菊姫や天狗舞などの山廃仕込は速醸造りでは味わいにくい、複雑な味を感じることができました。
生酛については、飲んだ覚えがないので何とも言えず...。摺り潰すことによる微生物に対する影響があるとかないとか諸説あり。
もちろんながら、酒母は日本酒の製法の一部にしか過ぎないので、速醸でも濃醇、山廃でも軽快な日本酒はいくらでもあります。
まとめ
・酒母(酛)=酵母を培養した液体。酵母に有利な酸性環境=乳酸。
・ 乳酸を乳酸菌に作らせるか(生酛、山廃酛)、人工的に添加するか(速醸酛、高温糖化酛)。
・生酛系酒母は様々な微生物による濃醇な酒質、速醸系酒母は安定した軽快な酒質。
...西洋の微生物学が「酵母」を純粋培養できるようになったのは1800年代後半、対して生酛造りは1700年頃に確立したらしい。生酛造りも一種の純粋培養。麹の培養といい、火入れの技術といい、日本の発酵技術の歴史はあなどれない、というかわけわからん。
参考書籍
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI) 著, 日置 晴之 監修, 「新訂 日本酒の基」, NPO法人FBO 発行, 2018.
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日本酒 山廃純米 菊姫 720ml(箱なし) | ||||
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天狗舞 山廃仕込純米酒 720ml 車多酒造 日本酒 純米酒 | ||||
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